BLACK FOREST

【公園・緑地】院生の備忘録・日記です...

【本】都市計画学/変化に対応するプランニング(序章:時代認識)

私は学部時代の専門が植物生態学だったため、大学院入学直後は都市計画やランドスケープ計画についての基礎知識が全くなかった。

 

先月、都市計画の入門書として本書が発売されたわけだが、私と同じ境遇の人がいればぜひ読んでほしい1冊だ。基礎的な情報が比較的分かりやすく説明されている。

 

 

また、都市計画を専門としていない人にもオススメ。本書に出て来た内容で気になったトピックを深く掘り下げていくことで、自らの専門に近いところから学んでいける。本書はあくまで都市計画を俯瞰するための視座を与えてくれるものだと捉えると良いだろう。

 

都市計画の実施は、その本質からして通常長年月を要するのは当然であるが、それだけに自分で樹てた計画が実現した姿を自分の目で確かめることが、City Plannerの秘かな願望である。

 

旧法から新法への移行期(高度経済成長期)に東京都の首都整備局長を務めた山田正男の言葉を引用することで「都市計画の時間スケール」を感じさせるところから序章は始まる。

 

筆者は「望ましい都市計画は時代の変遷とともに移り変わっていくため、時代の変化を捉える歴史観や今後の展望を見通す時代認識が必要となる」とし、本書のコンセプトを提示する。

 

そして序章では、1919年の都市計画法(旧法)誕生から現在までに歩んで来た「都市計画」の歴史を概観していく。以下要約である。

 

(1)【つくる都市】1919年:都市計画法(旧法)の制定

  • 第一次世界大戦の勃発に伴う大戦景気で重化学工業が進展
  • 都市部への人口集中と無秩序な市街化→都市計画法(旧法)の制定
  • 終戦後の改憲をはじめとした制度改革期にあっても大幅な改正は見られなかった

 

(2)【できる都市】1968年:都市計画法(新法)の制定

  • 高度経済成長を背景に戦前を凌駕する急激な都市人口の増加
  • 都市問題の深刻化、郊外のスプロール化、既成市街地の更新が課題として顕在化
  • 都市計画区域として市街化区域と市街化調整区域を設定
  • 開発行為のコントロールにより、合理的な土地利用を目指す
  • 「つくる都市」から「できる都市」へ。需要に対応する受け皿としての公共施設

 

(3)【ともにいとなむ都市】2000年以降

  • 経済のグローバル化:日本版REIT(2001年)、都市再生特区(2002年)の導入
  • 日本は人口減少・都市縮退の時代に突入
  • 「できる都市」の都市計画は限定的な地域でのみ→「できない都市」の増加
  • 持続可能性(環境問題)、レジリエンス東日本大震災)への関心の高まり
  • 未来志向の回帰(歩行前提の環境整備)→超高齢社会における都市計画と健康とのポジティブな関係の構築
  • 官民連携・市民参加型の都市づくり・インフラ整備が増加
  • 低未利用地(空き家など)の蚕食状の増加(スプロール時とは逆の現象)に伴う公共施設・公共サービスの再編
  • ともにいとなむ都市:連続性のある時間軸を包含した持続に価値を置く都市計画

 

 

序章を読むと、都市計画が世界や日本の経済状況に大きく影響を受けてきたことが分かる。そして、今後は都市縮退の時代に入るため、以前と同じロジックで都市計画を語るのは難しいと知る。

 

次世代を担う東大の若手研究者がこのタイミングで都市計画の教科書を出版したのは、まさに今、都市計画におけるターニングポイントを迎えているからだと考えられる。そして、今後の都市計画について考えていくのは我々若い世代であるため、筆者らはまさにこの世代をターゲットとし、今後の都市計画についての視点を提示しているのではなかろうか。